第14章 孤独
「このまま死んでください」
不意に、彼が私にキスをした。
「っ……! んっ!!」
「ん……っ」
がりっと唇を噛まれ、更なる痛みに顔が歪む。流れる血を、彼は舌で掬い取りごくりと喉を鳴らした。この行為に何の意味があるのか、何の答えなのか高熱で朦朧とする意識の中では自分の意見を主張することさえままならなくなる。
「契約者の血を飲み干すことで、私は貴女と交わした契約を破棄することが出来る。さあ、もう犬の真似事は終わりです。どうせ殺さなくとも、貴女はここで死ぬ」
瞼が重い、これ以上は……。
「生きていたい、何をしても。その思いだけは素晴らしかったとだけ、言っておきましょう。安心してください、貴女が死んでもラビットファミリーは私がきちんと潰しておきます。それがきっと、私が貴女に出来る唯一の救済ですから」
悪魔は微笑む、私の魂を奪うこともなく。そう、ただ私は、捨てられただけ。
「死んでしまえば、もう貴女を一人にするものは何もなくなりますね」
「ミカエ……ル……」
「永遠におやすみなさい、アリス。貴女は……幸せに、なりたかったのでしょうか」
暗闇の中へと、意識が落ちていく。
憎悪も怒りも悲しみも、意識が糸のようにぷつりと切れた途端沈黙する。