第88章 穏やかな時間
何も話さなくなったエルヴィンに
抱きしめられて、しばらく。
そっと顔を上げると、
長い睫毛が下を向いているのが見える。
……寝ている、訳じゃないのかな?
一本一本が太く、長い睫毛に
触れたい衝動に駆られるが、
もし本当に眠っていたら邪魔になる。
衝動を抑えながら、同じく目を瞑った。
「……モブリットに、
今の君の話をした方がいいか?」
「え、な、何で急に。」
落ち着いていたところで、
予想外の問いを投げかけられ、
少し声が裏返る。
「一週間モブリットと会えないのは、
辛いかと思ってね。」
「……私、そんなにモブリットに
依存してるように見える?」
「どうだろう……
だが、君はモブリットに対して
かなり心を開いているとは思うよ。」
「……そうだね。」
否定はできない。
確かにモブリットの存在は、
自分の中でかなり大きいものになっていた。