第158章 番外編《それぞれの“これから”のすごしかた》
「……私がこれから言うこと、予測してるの?」
「ああ。そう言ってくれたら嬉しいなぁ、と。」
口角を上げてニヤついているエルヴィンの頬を軽く抓る。
相変わらずエルヴィンは、私の心を私よりも先読みしてくる。
「ほら、早く。
制限時間が来てしまうじゃないか。」
「そんなに言って欲しい言葉かなぁ……」
ポツリと言葉を落とすと、予想外の真剣な表情が目前に迫った。
「当たり前だろう。
前世で君と別れてから、そうされることを望み続けていたんだから。」
いつの間にか正座をしていた膝に、エルヴィンの熱の籠った手のひらが置かれる。
もういいか……
ここまで熱い視線を注がれて、言わないでいる方が難しい。
「……エルヴィンが、色んな人に注目されるのは…ちょっと妬くかも。」
ふと頭に浮かんだ言葉を呟くと、満面の笑みに切り替わったエルヴィンの腕は、私の全身を包み込んだ。
……あの世界から離れたとしても、やっぱり私は思わせぶりな発言をやめられないらしい。
横目でエルヴィンの表情を盗み見る。
さっき雑誌で見た微笑みとは比べ物にならない、“本物”の色を帯びた笑顔は、私の心臓に対して「もっと働け」と促してくる。
「本当に……かなり久しぶりの感覚だ。」
「……何が?」
「君にやきもちを妬かれると、心の奥が、激しく波打つんだよ。」
前世でもそうだった。そうポツリと溢したエルヴィンの身体を、両腕で強く抱き竦める。
“心が波打っているのは、私も同じです。”
その思いは、心の中だけで留めておくことにしよう。
「凛。キスをしてもいいか?」
少しだけ身体を離したエルヴィンのその一言に、思わずプッと息を吹き出す。
「それ、」
「ああ。懐かしい言葉だな。」
私が言うよりも先に、そう言って笑うエルヴィン。
「あの時は君の理性が勝ったが、今回は俺の押しが勝つと思うよ。」
「それはどうかな。」
「試してみればいい。」
エルヴィンの頬に浮かんだ感情が、また私の心を湧き上がらせる。
今から再び“夢のような、波乱に満ちているのに幸せだった日々”その続きが始まる。
騒ぎ出す心はそのままに、そっとエルヴィンに微笑み返した。