第83章 落ち着かない日
……何か打たれた。
それに気付いたのは、
男の右手が注射器を握り締めていることに
気付いてからだった。
幸いにも、男は私の膝が
クリーンヒットしたようで、
股間を押さえたまま悶え苦しみ、
床を這いつくばっている。
今しか逃げ出すチャンスはない。
違和感の残る首筋を押さえたまま
勢いよくドアを開け、部屋を飛び出した。
部屋を出てすぐ、
息を切らしたナイルに出くわす。
「凛!!!無事か?!」
「……え、何、どういうこと?」
「今リヴァイがお前を探していて、
お前がエルヴィンに呼ばれたが、
見当たらないと。
エルヴィンはここには来ていなかったようだし、
誰かに騙されたんじゃないかと、」
「ああ……、やっぱりそうだよね。」
思わずその場にしゃがみ込む。
と同時に、身体の中で、
心臓がドクンと大きく脈を打った。