第76章 過去と今の差し替え
「その“ミケ”のことは、
もう思い出したくないか?」
「……分からない。
前の世界に居た時は、絶対会いたくないし、
見たくもなかった。」
……なんだ。
相当憎んでいる相手じゃないか。
俺は出会った当初、
どう足掻いても最悪の第一印象だった訳だ。
だが、辛辣な発言とは裏腹に、
凛の表情は柔らかい。
「……でも今、こうしてミケと居ると
安心できる部分もあるし、
もう色々吹っ切れてるんだろうなぁ、
とも思うから。」
やっと視線の合った凛の表情を見て、
ずっと感情の行く手を阻んでいた何かが、
崩れ去る音がした。
「あっちの“ミケ”とは、最終的に
嫌な思い出のまま終わったけど、今ミケと」
「俺がその“ミケ”との記憶を
擦り替えてもいいか?」
会話を無理矢理終わらせ、
自然と椅子から立ち上がると、
凛の側に屈む。
「……え?」
間延びした凛の声を封じるように、
顎を引き寄せ、すぐに唇を重ねた。