第76章 過去と今の差し替え
「前ミケの部屋に来た時も、
同じようなことがあって。
もう御食とミケは同一人物なんじゃないか
って思ってしまいそう。」
「……何か繋がりがあるのかも知れないな。」
「え?」
気の抜けた声を出す凛の頬に、
もう一度指を滑らす。
柔らかく女らしい肌が指先の動きを促した。
「お前に触れた時の
“ミケ”はどうだったんだ?」
「……どうって……?」
「今の俺と同じような触り方をしたのか?」
自然に指先は首筋までを
ゆっくり撫でていく。
いやらしい触り方をするつもりはない、
とは言い難い。
あわよくば、このままもっと
凛に触れていたい、先に進んでみたい、
そんな気持ちすら芽生え始めていた。
凛は記憶を呼び起こしているかのように、
そっと目を瞑る。
「……そうだね。こんな感じだったかも。」
「曖昧だな……数か月前の話だろうに、
もう覚えていないのか?」
「うん。触られたのとなると、
もう一年近く前になると思うから。」
凛の表情は一瞬憂鬱な色を見せるが、
俺に心配を掛けまいとしているのか、
すぐに明るさを取り戻した。
その“ミケ”のことを無理に思い出させるのは
よくないのかも知れない。
そもそも、
俺を避けていたこともあるくらいだから、
きっと“ミケ”とは
いい思い出ばかりある訳でもないだろう。