第69章 明かされていくエニグマ
「その男の身分は分かっていたんですか?」
「そう。そこが問題だった。
その男は戸籍に名前が無くてな。
まぁ、当時は役所も
今よりだいぶ杜撰だったから、
それは不思議な話でもないんだが。」
「戸籍がなかった、か……」
もし私と同じように、
別の世界から来た人だったとしたら。
戸籍に名前が無いのは当たり前だ。
やっぱりあの部屋は怪しい。
「だが、実は男が居なくなるより前、
ワシはそいつと呑み屋で
一緒になったことがあったんだ。」
「え?!」
思わず素っ頓狂な声が出てしまい、
咄嗟に口を塞ぐ。
「すごい偶然じゃろう。
ワシも普段なら
呑み屋で隣に座った男のことなんぞ
覚えてはない。
だが、その男はなかなか印象的な奴だったから
覚えていたんだ。」
「ど、どんな人だったんですか?」
図らずも声が少し震える。
徐々に核心に迫っている。
それが自分の気を動転させていた。