第65章 眠れない夜は
「……もう今日で三回目なんだって。」
「……ああ。
遺品を受け取ってもらえなかったのか。」
すぐに察してくれるモブリットの胸元に
顔を埋めたままで話し始めた。
「兵士の母親に、遺品なんていらない、
そう怒鳴られて、
毎回すぐに追い返されるって話を聞いて。
私じゃ何の力にもなれないかも知れないけど、
付いて行くことにして。」
胸の奥から何かが込み上げて来て、
一度深呼吸をし、話を続ける。
「……で。母親に会ってすぐ分かった。
遺品がいらないんじゃないってこと。
……息子の死を認めたくないから、
受け取りたくないってことに。」
「それで凛は?」
「今にも泣き出しそうな顔の母親を差し置いて、
私が先に泣いてた。
ほんと、情けなさ過ぎてどうしようもない……」
「でも、その母親は
遺品を受け取ってくれたんだろう?」
「……何で分かったの?」
「俺も全く同じ経験をしたことがあるから。」
予想外の返答に、思わず顔を上げて
モブリットに視線を向けた。
「……俺も初めて遺族の元へ行った時だったな。
涙腺が崩壊するって、こういうことを言うのか。
なんて、咽び泣きながら思ったよ。」
モブリットの表情は悲しそうで、苦しそうで、
掛ける言葉を探しているうちに
強く抱き寄せられ、
またモブリットの胸に顔を埋めた。