第59章 もしもその時が来たとしたら
「あの部屋、“異世界へ続く部屋”
って言われてるんです。」
それを聞いた瞬間、ぞわっとした空気が
身体をすり抜けた気がして、
思わず腕を抱いた。
「……異世界へ続く部屋……?」
「あくまで噂なんですけど。
あの部屋に泊まった客が、
突然消えたことがあったみたいで。」
「……そのお客さんは
まだ見つかってないってこと?」
「ああ。そうみたいだな。
その噂が変に広まりすぎたせいで
利用客もいないし、ホテルのオーナーも
格安で貸すようにしてるらしい。」
心臓の音が聞こえそうなくらい、
脈が速く強く胸を打っている。
あの部屋は、
私のいた世界へと続く可能性もある、
ということだろうか。
モブリットも同じことを考えているのか、
顎元に手を置いたまま、
動きが止まっていた。