第32章 エルヴィンの感情
「……エルヴィン。
何か悩んでることある?」
「いや、ないよ。」
完全に何かを察している凛に問いかけられ、
すぐに返事をする。
勿論、この返答は嘘ではない。
悩んでなんていない。
もうずっと前から答えは出ていた。
「……嫌だった?」
「そう見えたか?」
むしろ乗り気に見えた筈だ。
返しに困ったのか、凛は口を噤む。
「大丈夫だ。心配させたならすまない。
ただ、今日は本当にこの書類を片付けないと
まずいんだよ。」
「それは嘘だね。」
思わず生唾を飲みそうになる。
「何か私に隠してるよね?」
書類を拾っていることで
凛の表情は見えないが、
声色だけで心配している様子が
痛いほど伝わってきた。
「隠してないよ。」
それ以外の返事は思いつかない。
隠しているとか隠していないとか、
もはやそう言う問題でもない。
これは、自分自身の問題だ。