第32章 エルヴィンの感情
「……そんな顔をするな。」
凛の表情を少し垣間見ただけで、
簡単に感情が読み取れてしまう。
これはいいことだと思っていたが、
今に至っては都合が悪い。
「……ごめん。」
「いや、君が謝ることじゃない。」
絡まった指をそっと解く。
もう一生繋いでいたいくらいだが、
そうはいかない。
「そろそろ仕事に戻るよ。
凛は先に休むか?」
「ごめん。」
また問いとは全く関係のない言葉を返され、
返答に困る。
が、何も返事をしないまま
仕事に戻ることも出来ない。
「もう謝るな。さっきのは俺から」
「もう無理です。」
発言を遮られたと思った瞬間、
唐突に唇を奪われ、
思わず小さく声が漏れる。
「ま、待て。凛。」
一瞬唇を離し、呼吸をする。
それでも何と声を掛けるか迷っているうちに
再び唇が重なった。