第31章 それぞれの感情
「……それでも、
最近そういうことはしていないから、
特に話せるようなこともないんだ。」
「調査前でお互い忙しいからか。」
「それもあるが。」
エルヴィンはそれだけ言うと小さく息を吐く。
「……エルヴィン。
お前、また余計な事を考えているだろう。」
「余計な事ではない。」
「いや、お前のその考えは余計なことだ。」
「俺が何を考えているのか
分かっているような口調だな?」
「そりゃ、分かっているからな。」
ミケは既に確信を掴んでいた。
調査前は自ずと身体が疼くものだ。
普段それ程性欲が旺盛でなくても
女を抱きたくなるし、
恋愛に興味のなかった兵士でも
突然恋人を作りたくなったり、
家庭の暖かさを感じてみたくなったりする。
そしてそれは大体の調査兵に言える。
例外は殆どない。
理由は大方予測がつく。
本能がそうさせているんだろう。
死に直面することを予知しているからこそ、
子孫を残したい、後悔を残したくない。
命果てるその瞬間まで
自分の人生は無駄だったなんて思いたくない。
……もし死と向き合う状況になったとしても、
最期は幸せだった思い出を胸に逝きたい。
多分、そういうことだ。
それなのにエルヴィンは
それと逆のことをしている。
それがどういう意味を持つか
分からない訳がない。