第27章 避けられない相手
「な、ないよ。
と言うか、さっきから何の質問?
もう用事終わったし、仕事に……」
焦りから、かなり早口になって
立ち上がったその時、
「凛。もう少しここに居てくれ。」
少し不安気にも聞こえる低音の声と温かい手が
心と腕を同時に掴んだ。
……この言葉は記憶にある。
仕事が上手くいかなかった時、疲れている時、
何か悲しい出来事があった時。
御食はこうして私を
引き留めたことが稀にあった。
「もう少し、凛と話していたい。」
ミケの真剣な目に吸い寄せられるように、
ゆっくり椅子に座る。
曇りのないどころか光すら見える瞳を見ながら、
心にかかっていた雲が
ゆっくり取り除かれていく気がした。
ミケは御食と同一人物な訳じゃない。
二人の意思が繋がっている訳じゃない。
そう理解していても、
この憂心すらも感じられる手を振りほどいて
部屋を出て行く気にはなれなかった。