第153章 ●ありがとう
「反省なんて、しなくていいよ。」
背中に回された凛の手に力が入り、それを受け入れる様に、同じく凛の腰に手を回す。
隙間なく密着した身体は、衣服の存在を嫌がっているようにも思えたが、凛の抱擁から逃れる気も起きず、そのまま強く抱きすくめた。
「……私も、エルヴィンがいなくなってからも、思い出したいから。
エルヴィンと、ここで過ごしたことを。」
彼女は、また泣いているのではないだろうか。
細い声を聞きながら、心臓が締め付けられるのを感じる。
「もう今日でさよならしなきゃいけないのに、エルヴィンを帰したくなくて仕方ない。
エルヴィンをずっとここへ留めておきたい。
こっちで新しい夢を見つけてもらって、向こうでの団長職なんて」
「凛。」
これ以上聞いていられないし、凛にも言わせたくない。
同時に、彼女もこんなことは言いたくない筈だ。
語調を強めて名前を呼ぶと、凛の身体は小さく跳ね、その後すぐに肩が震え始めた。
凛の全身を包み込むように抱き直す。
伝えたい言葉は多くあるが、回りくどい言葉は今必要ないだろう。
「凛、ありがとう。」
二番目に言いたかった言葉だけ凛の耳元で溢すと、凛はゆっくり顔を上げた。