第153章 ●ありがとう
「……お礼を言われるようなこと…、全然、言ってない……
酷いこと言おうとした、のに、」
すでに嗚咽が漏れ、言葉を紡ぐことは困難を極めるのだろう。
濡れた両頬に唇を滑らせると、棘の無い塩味が口の中に紛れ込んだ。
「酷いことなんて思わないよ。
嬉しかった。」
「……嘘だ、」
「凛が俺を必要としてくれるのが嬉しい。
……他の誰でもない、凛が、俺を求めてくれていることが、幸せなんだ。」
これ以上発言を続けると、こっちまで余計なものが零れそうだ。
目を瞑り、もう一度凛を強く胸に抱く。
しゃくり上げながら泣く凛の髪を、凛が落ち着きを取り戻すまで撫で続けるつもりでいたが、不意に唇が奪われ、泣きはらしたような目が視界に飛び込んだ。
どんなに不安定な精神状態でも、このキスが全て忘れさせてくれる気がして、縋るように凛の唇を愛撫する。
もう焦らす必要はないだろう。
緩急をつけることもせず、強く舌同士を絡ませ合い、卑猥な音を立てながら、ひたすら口内を弄る。
凛の嗚咽も吐息も、口の中でもがいているようだったが、それをも呑み込みながらキスを続け、微睡んだような表情を浮かべる凛の、シャツのボタンに手を掛けた。