第150章 気遣いの出所
「……いいところだったのに。」
凛はあからさまに大きなため息を溢す。
エルヴィンを攻め続けられるなんてチャンスは、これを逃したらもう二度と来ないかも知れない。
次から上手くかわされそうな気がするから、今のうちに“エルヴィンを快感で落とす”という目標を達成したかったのに……
いつの間にかそんな目標を掲げていた自分に、思わず笑ってしまいそうになりながら、エルヴィンの枕元から携帯を引き寄せる。
「誰からだ?」
「範司。」
少し安心したようにも見えるエルヴィンを垣間見ながら、電話を取った。
「凛?いいところだったのに邪魔して悪いね!」
「え、何でそんな」
「ほう……
やっぱり“いいところ”だったんだね。」
声色だけで、範司がニヤリとほくそ笑んだ姿が脳裏に浮かぶ。
鎌をかけられた……
零れそうなため息を呑み込むと、範司の嬉しそうな笑い声が受話器から聞こえた。
「まぁまぁ!
こっちとしては分かり切ってたことなんだから、そんな落ち込まないでよ!」
「……落ち込んでないもん。
で、範司の要件は何だったの?」
もうこれ以上墓穴は掘りたくない。
早いところ本題に入ろうと、口早に問いかける。
「ああ、それなんだけど。
私、やっぱりエルヴィンが帰るまではそっち行くのやめようと思って。」
「え、何で?
エルヴィンと話したいこともあったんじゃないの?」
「うーん、まぁそうなんだけどね。
でも、二人きりの時間を楽しんでもらう方が、こっちとしても安心するから。
エルヴィンの世界の話は、後から凛に聞くことにするよ。」
思ってもみなかった発言に、思わず目を丸くした。