第146章 もっと素直に言えたなら
「……エルヴィン?」
寝室に戻ると、ベッドの淵に座ってテレビのリモコンを操作しているエルヴィンが目に入る。
「凛。もう風呂はいいのか?」
「うん。」
あの大きな物音は何だったのだろうか。
不思議に思いつつもエルヴィンの隣に腰を下ろす。
そっと伸びてきたエルヴィンの指先が、私の濡れた毛先を撫でた。
「……もしかして、物音に驚いて急いで出て来たのか?」
「あ、やっぱり物音したんだね。
さっきの音、何だったの?」
「いや……少し驚いただけだよ。」
何に?そう問うより先に、エルヴィンはリモコンを操作し、チャンネルを変えた。
「うわ、今こんな映画してたんだね……」
思わず少し目を細めてしまう。
テレビに映し出されたのは、分かり易い程に肌の爛れたゾンビらしいゾンビが、墓場を徘徊する様子だった。
自分もあまり得意ではないから、ホラー映画を積極的に見ようと思ったことはない。
それなのにリヴァイとラブホテルに行く時、リヴァイの弱点を掴みたい一心でDVDを借りてみたことを、ふと思い出した。
「……今なら、リヴァイがホラー映画を観たがらなかった理由、分かるよ。」
ポツリと呟くと、エルヴィンの手のひらがゆっくり私の髪を撫でる。
あの頃の何も知らなかった自分は、リヴァイにかなり酷な事をしていたんだろう。
結局あの映画は見ずに終わったが、それで良かったと、今になって心底思った。