第142章 久しぶりのデート
「範司のところで稼いでいた金があって良かった。
この世界でも、スーツはなかなか値が張るんだな。」
「もっと安いスーツが揃ってる店もあるんだけどね。
エルヴィンに安いスーツを着せたくない、っていう私の見栄。
結局エルヴィンがお金出しちゃったから、申し訳ないんだけど……」
エルヴィンと一緒に選んだスーツは、縫製工賃が安い海外生産ものではなく、生地も国内産で、国内生産されている、それなりの値段がするウール100%のスーツだ。
それでもさすがに、高級インポート生地にまでは手を出せないし、そこまでするならオーダーメイドにしたいくらいな気分になってしまうから、渋々断念した。
「いや、嬉しいよ。
着心地もいいし、この世界の一般的な普段着よりは着こなせてる気がする。」
エルヴィンはどんな服装でも映えると思うけどね、と溢しながら、スーツ姿のエルヴィンからなかなか目が離せない。
それくらい魅力的な姿だった。
ずっと見ていても飽きない。
むしろずっと見ていたい……
すれ違う人たちが振り向いてしまう気持ちも痛いほどわかる。
これだけスーツを着こなせる男性なんて、そういない。
ふと視線が重なると、何故か恥ずかしくなってしまい、パッと目を逸らす。
が、すぐに顎元を掴まれ無理矢理に視線は重ねられた。
「スーツを着ると、君の瞳はあからさまに艶っぽくなるね。」
「そうだろうね……否定はしない。」
正直に答えると、エルヴィンは嬉しそうに頬を緩ませる。
「期待に添えられるように、今夜はこの服装のままで凛を襲うよ。」
「……え、」
「その方が燃えるだろう?」
そりゃ燃えますとも!と声高らかに叫びたい気分になるが、こんな街中でそんなことは言えない。
小さくコクコクと頷き、エルヴィンの満足そうな表情を視界の隅で確認した。