第141章 事実の整理
エルヴィンは凛の肩を摩りながら、暫く沈黙の時間を過ごしていたが、俯いていた凛の視線がフッと上がったことで、手を止めた。
「……もう、絶対戻れない、の?」
しゃくり上げながらの凛の一言は、切なく苦しい色を纏っている。
こんなにも、自分のいた世界に戻りたいと思ってくれている事実が、素直に嬉しい。
だが、こんな風に泣きじゃくる凛を見ていると、胸が強く締め付けられた。
「戻るなら死ぬ覚悟じゃないと無理だろうね。
でも、誰も凛のそんな覚悟を望んでいないでしょ?」
範司の言っていることは正しい。
きっとそれは、凛にも分かっている筈だ。
ただ、今はそれを受け入れることが難しい状態だということは、手に取るように分かった。
凛の啜り泣く音声が、室内に充満する。
凛がこんなにも感情を露わにして泣く姿を見るのは、初めてだった。
いつも泣く時は、堪える様に顔を伏せ、出来るだけ目につかないような泣き方をしていたから、それだけ今は、感情を抑える術が全く見当たらないのだろう。
モブリットもこの世界にはいないと分かった今、凛の不安はきっと尋常じゃない。
その時、ふとあることを思い出した。