第137章 大切な時間
ハンジの声も足音も遠ざかったが、それでもしばらくは、互いに感情を落ち着かせる為のような沈黙が流れる。
不意にコツンと、額と額が重なり合い、熱っぽい体温がじわじわ行き来した。
「……ごめん。完全にタガ外れてた。」
「お互いに、ね。」
申し訳なさそうな声を聞きながら、ふとあることを思い出す。
「あ。キスマーク。」
「ん?」
「かなり軽い感じだったけど、ちゃんと付いてるの?」
腕を上げて見ようとするが、痕を付けられた場所は二の腕の内側だ。
どうやら自分で直接的に目視できる位置ではないようだ。
「……これ、鏡ないと見れないよ?」
「それでいいよ。」
私が必死で痕を見ようとしていた姿が面白かったのか、モブリットの頬は緩んでいる。
「大丈夫。ちゃんと付いてるから。
皮膚が柔らかい所は付きやすいから、軽くでもしっかり付くよ。」
「……詳しいね。」
「いや……冷静に考えたらそうだと思わない?」
「私の冷静さが欠けてるってこと?」
「え、そういう意味じゃなく、」
モブリットの焦ったような声を遮るように、意図的に大きなため息を落とした。