第137章 大切な時間
「……だが、まだお前を元の世界へ戻す覚悟は、誰一人として出来ていない。
お前がこの世界では住み続けられないかも知れない、という事実を、認めたくないんだ。
“あの部屋”に連れて行ってから、お前が起きる為の試みも実践してみようと思ってる。
さすがに往生際が悪いと思うだろう?」
「ううん。嬉しいよ。
私も戻らないでいいなら、そうしたい。」
いつの間にか自分の腰に回されていた凛の手は、服越しでも伝わる熱を帯びていた。
「……でも、私はもう、ある程度覚悟はできてるのかも。
これ以上みんなに迷惑を掛けたくない。
御荷物になるくらいなら、戻った方がいい。
そう思ってる。
……私、薄情かな……?」
「どちらかと言うと、それは厚情だ。
お前は俺たちの負担になりたくないから、覚悟を決めたんだろう?
まぁ、こっちとしてはそんなこと負担でも迷惑でもないが。」
事実を述べただけだが、凛の肩が少し震え、思わず抱きしめる力を強める。