第137章 大切な時間
「凛?」
モブリットの困惑した声を聞き、咄嗟に手を離す。
モブリットの手は少し汗ばみ、冷たくなっていた。
戦果を挙げている様子の今、モブリットのこの状態を作ってしまったのはきっと私だろう。
躊躇うこともなく、一度離した手を、もう一度握り締めた。
「……ごめんね。ありがとう。」
その言葉だけで、モブリットは察してくれたようで、もう片方の手で優しく頭を撫でられる。
「こっちこそありがとう。」
体温を送り込むように、モブリットの手をますます強く握る。
申し訳ない気持ちでいっぱいなのに、いつもの優しく穏やかな顔を目の前にして、表情が緩まずにはいられなかった。
「おい。いちゃつくのはその辺にしとけよ。
団長と兵長が、今にも殴りかかりそうな顔になってる。」
ミケに茶化すように言われてすぐ、モブリットから手を離す。
今度こそ報告書を受け取り、素早く目を通した。
「……被害者ゼロだったの?!」
「ああ。
怪我人は出たが、命に関わる怪我を負った者はいない。」
エルヴィンの言葉を聞きながら、深い安堵感と嬉しさで、堪えきれず大きなため息を溢す。
「短期間の調査とはいえ、被害者が出なかったことは初めてだ。
完全に君の作戦が功を奏した。
これからもそれを元に作戦を組み立てるよ。
凛、ありがとう。」
勿論この戦果は、私の考えた作戦だけの力ではない。
兵士たちがそれぞれ日々の訓練に励み、実戦で奮闘した結果だ。
それでも自分も、目に見えてこの兵団の役に立てた。
その事実は強烈な喜びを生み、簡単に涙腺が刺激された。