第137章 大切な時間
「全員酷い顔になっておるぞ。」
ピクシスは全員の顔を見渡し、ふうっと小さく息を漏らす。
「これは、どういう状況だ?」
「凛は、いつからこの状態なんですか?」
リヴァイとモブリットの問いが重なり、ピクシスはベッド脇の椅子に腰かけると話を始めた。
「駐屯兵団に来た次の日からだ。
ただし、三日間ずっと眠っていた訳ではない。
一日置きに起きてはいる。」
「起きた時の凛の意識はハッキリしているんですか?」
すかさず問いかけたエルヴィンは、凛の顔から視線を逸らさない。
「ああ。起きた時は普通だな。
ただ、身体は多少怠いようだが。
それでも凛からしてみれば、自分が丸一日も眠っていたことが信じられないような反応だった。」
ピクシスがそう言い切った後、部屋は重たい沈黙に包まれる。
いつも明るく振舞っていたハンジでさえ、これが楽観視できる状況だとは思えていなかった。
「……まぁ、お前たちのその反応は予測しておったよ。」
ワシも最初凛が眠り続けていた時は、言葉を失うしかなかったからな。
と、困惑したような笑みを溢した後、ピクシスは再び話し出す。
「明日になれば、きっと凛は起きるだろう。
しかも普通に会話もできるし、なんなら仕事すらしたがる。
彼女が一日眠り続けていたことなんて、忘れそうになる。
……それでも、この先ずっと、この状態ではいられないだろう。」
ピクシスの言葉の意味は全員が理解できていた。
だが、誰一人として“この状況を打開する方法”に移す為の話をする者はおらず、この場は交代で凛の様子を見守る話で纏まる。
ピクシスもその話を肯定することも否定することもせず、静かに調査兵団基地を後にした。