第128章 千丈の堤も蟻の穴より崩れる
気が付いた時、
辺りは薄暗い闇に包まれていた。
もう夜?と一瞬考えるが、
軽く辺りを見回して、自分のいる所が
埃っぽい倉庫のような場所だと確認をし、
きっとそこまで時間は経っていないはず、
と結論付けた。
今自分は椅子に座らされた状態で、
口は手ぬぐいのようなもので覆われ、
腕は椅子の後ろで縄を使って固定されている。
……それにしても、腕のロープ。
結び方が緩い。
誘拐されることなんて勿論初めてだが、
そこまで不安な気持ちに駆られていないのは、
この隙のありそうな拘束の仕方にあると思う。
それに、足は特に縛られている訳でもないし、
腕のロープから抜け出し、
出入口さえ確保できれば、
1人でも逃げ出せる気がした。
その時。
「気が付いたのか?」
黒いハンカチのようなもので口元を覆った男に
顔を覗き込まれる。
目元しか見えないが、
年は自分と変わらないか、
もしくは若いくらいだろう。
「……急に拉致した上に拘束までして
申し訳ないとは思うが、
団長が来るまではこのままでいてもらう。」
やっぱりエルヴィンが狙いか。
でも、そう思うより先に、
申し訳なさそうにしている男の発言が
気になった。
……エルヴィンがここに来る前に、
話をしてみる価値はありそうだ。
身体を揺らし、
如何にも息苦しさをアピールしてみると、
男は焦ったように口の手ぬぐいを外してくれた。