第128章 千丈の堤も蟻の穴より崩れる
「あと、ここだけの話だけど、
あなたと団長が“親しい仲”だという噂が
流れているみたいね。」
「それ、乱暴してきた重役にも言われた……」
「そう……その重役発信なのかしら……
そのことも気を付けておいた方が
いいかも知れないわ。」
「エルヴィン団長と私が“いい関係”だと
思われない様にした方がいいってこと?」
「あなたは団長秘書の役割も担っているし、
それは難しいかも知れないけれど、
なるべく外では親しげな姿を見せない方が
いいかもしれないわね。」
アンカがそう言うということは、
いつだったかリヴァイが言っていたように、
エルヴィンを団長職から
引き摺り下ろそうと企む存在が
動いている可能性がある。
今日みたいに、油断してたらダメだな……
昼のエルヴィンとのやりとりを思い返すと、
ため息が出そうになる。
「だけど、エルヴィン団長のことだから、
何か考えがあるのかも知れないし、
あなただけが
そこまで危惧する必要はないわよ。」
私が曇った表情をしていたからだろう。
またアンカに優しく声を掛けられ、
視線を上げた。
「団長、そんな色々考えてるかな……」
「ええ。きっとね。
彼は普通の人間の
何倍も、何十倍も聡いし思慮深い。
噂も耳に入っているだろうし、
対策はあるでしょう。」
「エルヴィン団長、優秀な参謀のアンカに、
そんな風に思ってもらえてるって知ったら
喜ぶよ。」
「私がこうして団長を信用しているのは、
凛に関することだからよ?
団長はあなたを絶対守ると思うから。」
「……それって、」
「私は本当に凛と団長が
恋仲だと思っていたのだけど、違うの?」
予想外の発言に、目を丸くする。
まさかアンカにそう思われていたとは
考えもしていなかった。