第3章 地平線の見える丘で
『うん……悪くねえ』
兵舎裏に広がる森を抜けた先。
地平線の見える丘で、兵長お手製の卵サンドを頬張った私は開口一番にそんな事を言った。
「おい」
それは何だ。
俺の真似をしたつもりか?
愛用のティーセットで紅茶を注ぎながら兵長は不機嫌な声を出す。
少し歪んでしまったポットにはあの日の傷が刻まれたままだ。
『冗談ですよ。おいしいです』
「チッ……なら最初からそう言え」
『兵長の愛情たっぷりですね』
言いながら微笑んでみせると、彼は照れた様子でジャムサンドを口に放り込んだ。
この後、パンを喉に詰まらせた兵長が淹れたての紅茶を飲んで舌を火傷したのは言うまでもない。
「クソ……まだ舌がヒリヒリしやがる」
私の膝に頭を乗せて寝転ぶ兵長は“あっかんべー”をして赤い舌を見せた。
空になったバスケットには丘に群生していた花がいっぱいに詰まっている。
兵舎に帰ったら花瓶に生けて食堂に飾ろう……などと思いを巡らせていると兵長の手が伸びてきて。
「」
頬に当たる冷たい指先。
触れ合った肌がポッと熱くなる。
『どうしました?』
そっと訪ねてみた私に微笑みを返して、兵長はぽつりと呟いた。
「愛してる」