第2章 忘れじの記憶
【Scene4】Because of...
それは唐突にやって来た。
日々濃くなっていく兵長への気持ちがまさかあんな形で確信へ変わるなんて……あの時の私は思いもしなかったんだ。
『兵長ー!熱々の紅茶ですよー!』
とある日の晩。
復興作業の帰りに立ち寄った雑貨屋で珍しい茶葉を手に入れた私は、彼の自室前で立ち尽くしていた。
先程からいくら呼んでも返事がないのだ。一番に飲んでもらおうと兵長愛用のティーセットを用意したのに。
普段なら勝手にドアを開けて侵入を試みるのだが、如何せん今はティーセットで両手が塞がっている。
『(足で蹴破るか……?)』
と、そんな事を考えていた時に
事件は起きた。
「もういいわよ!意気地なし!」
突然開いたドアから出て来たのは派手に着飾った背の高い女性だった。
部屋の奥で固まっている兵長に捨て台詞を吐いた女性は、高いところから私を一瞥すると「フンッ!」と鼻を鳴らして立ち去ってしまう。
私の予想が正しければあれは娼婦で……彼女の身なりから察するにさぞ“高級”な筈だ。
何がどういう訳かは知らないし知りたくもないが、去っていく娼婦は随分と服が乱れていて。
私は持っていたティーセットをその場に投げ捨てたい衝動をグッと抑えて踵を返したのだった。
「おい……、待て……!」
石造りの廊下を歩き出してすぐ、兵長の声と共に肩を掴まれた。
その衝撃でよろめいた私は図らずもティーセットを落としてしまう。
轟音を立てる金属製のポット。
飛び散った熱湯が足にかかったが不思議と痛みや熱さは感じなかった。
『……で……下さい』
「あ?」
『その手で私に触らないで下さい!』
言いながら振り払った兵長の手はなんだか凄く冷たくて。
私はあの日、自身の深く傷ついた心を以って“兵長のことが好き”だと痛感したのだった。