第11章 空間期の合間にロマンス(東峰旭)
「明けましておめでとうございます、旭おにいさま。本年も何卒宜しくお願い致します」
元旦。
東峰家の玄関先で流暢に挨拶を述べ、頭を下げるなまえを前に、旭は開いた口が塞がらなかった。
彼の頭に浮かんだ言葉はずばり " どの口が言っているのか " である。旭おにいさま、なんて、18年を生きてきて初めて言われた。
「あらー、なまえちゃん。ずいぶん綺麗になったわねぇ」
「やだ、おばさまったら。昨日会ったばかりじゃないですか」
「だってつい最近まで、こーんな小さかったのよ?今じゃ男の子達が放っとかないわね」
「そんなことないですよぉ」
よれた部屋着のまま言葉を失って突っ立っている旭を他所に、彼の母親となまえは和気あいあいと言葉を交わす。「でも本当に美人だわ〜。ね、旭?」と呑気な母の言葉通りに、なまえは白地に赤の花柄の、小紋と呼ばれる和服姿でずいぶん艶やかな佇まいだ。
しかし当の旭にとっては、この普段とギャップのありすぎるなまえの姿に、ただ顔をしかめることしかできなかった。
「なまえ……家に帰ったんじゃなかったのか?」
やっとのことでそう尋ねると、帰りましたよ、と当然のように彼女は答えた。「帰って、着替えて、また来ただけです」
「俺、今やっと寝たトコだったんだけど……」
弱々しく言ってはみるものの、「さて、旭おにいさま、」と黒い笑顔のなまえは聞いてはくれない。
カジュアルなデザインのその着物の上に羽織を着込み、肩の後ろ、つまり玄関の外へと親指を立てた彼女は元気はつらつで言い放った。
「初詣に参ります!ボディーガードをお願いしますね!」