第6章 視点を変えて見てみよう【3.拡大】(青城3年)
キリッと凛々しい表情をして「お願いしますなまえちゃん!」と真剣に頼む及川徹。
「じゃあ行きまぁす。きゅー」
「うわ、雑!」
ぱっと明るくなった画面に、及川が映った。
けど、なんか、様子が変だ。
「ねぇ、さっき話してた男って誰……?友達?」
俯いた顔にかかる前髪が片方の瞳を隠していた。低い声を出す及川にスマホのカメラを向けながら、そうきたか、となまえが小さく呟いた。
「………俺以外の男と話さないでって言ったよね?またお仕置きされたいのかな……?ねぇ……ねぇってばちゃんと聞いてる!?お前はさ、俺だけのモノだって言ったよね!!?他の男とイチャつくんならその手足切ってもいいかな!!?俺のそばにいるなら要らないよね!!!?だってお前は俺のブッフぅ!!」
「うるせーしなげーしこえーよ」
お約束通り岩泉に蹴られた及川が床に倒れた。
その様子を見届けてから「見事なヤンデレでしたねみょうじさん」と呟いてなまえを見ると「そうですね」と彼女も返した。
「でもこれは彼自身が中二病というよりは、中二病を患っている女子が好みそうな男って感じでしたね松川さん」
「確かにそうですね。では及川選手は失格とみなしましょうか」
「異論はありません。あ、ちなみに今までのは全部、録画モードで記録してます」
ピコン、と音と共に録画終了の文字が画面に表示された。「うわ、マジかやめろよ!」と岩泉がなまえに飛びかかる。
「消せ!!」
『うっ……!古傷がいやに疼くな……!?』
「再生すんなボゲ!!」
「岩泉からボゲいただきました!あざす!!」
バタバタとした揉み合いを経て、男女の力の差によってなまえを床に押し倒す寸前までいった岩泉を見ながら俺は「ごめんな岩泉」と独り言のように呟いた。
「俺達のマネージャー、ちょっと頭がおかしいんだよ」
その声は必死な岩泉の耳に届くことはなく、プロジェクターの光を遮って暴れる2人のいびつな影だけが、白い壁にいつまでも映し出されていましたとさ。
まとめ・大きな画面にみんなを映して遊んでみたら、結局いつも通りの展開でした。
おしまい