第42章 日曜日(山口忠)
今回、神社に行きたいと提案したのはなまえの方だった。近くにケーキの美味しいお店があるよと情報を出したのはこっちで、
先週の映画は俺が決めた。来週の予定を決めるのは多分君。で、その次はーー
「今度は、どこに行こうか」訊ねるたびに、山口は少し勇気を必要とした。もし返事が無かったら、遠回しにはぐらかされたら、どうしよう、と思うまでになっていた。けれどその心配は杞憂に終わる。
「そうだなぁ。忠くん、遺跡とか、好き?」
「少なくとも、好き、とか嫌い、とか言えるレベルではないよね。楽しいの?」
「私もわかんない。わからないから、行ってみようよ」
近くだと何処にあるんだろうね、となまえは真剣な顔で調べ始める。「あ、もうすぐアレだって。いちご狩りの季節みたい。いいねぇ、旬のもの。夏が来たら海辺の街に野菜カレーを食べに行って、秋になったら梨とぶどうをーーー」
「遺跡以外は食べ物ばっかり?」
「ね、いいでしょ?」
いつの間にか、山口はなまえの甘えてる声を聞き分けられるようになっていた。その声を出すのは二人きりの時だけということ。休日に会う時に、一度着た服はできるだけ避けるようにしているらしいこと。はっきりとした証拠は無いけど、多分、そうなんじゃないかな、と思うことがたくさんあった。
ダメ?となまえが首をかしげる。返事がないので、気乗りしないのかと心配しているってことまで手に取るようにわかってしまう。もしかしたら、なまえも、当たり前のように二人のための予定が埋まっていくことが、実は当たり前じゃない特別なことなんだと、分かっているのかもしれない。そうだったらいいなと思う。
「いいよ、行こうよ」と山口は肯定の言葉を返した。ボタンがふたつ頭に浮かぶ。『次に進む』と書かれているのは左側。押そう、と決めて、心の中で押した。
ーーー
おしまい