第41章 はるかぜとともに(澤村大地)
鍵が差し込まれた玄関のドアは、軽やかな音をたてて開いた。不動産屋のおじさまが先立って、慣れた風に靴を脱いで入っていく。どうぞ、とスリッパが取り出され、私の前に置かれた。
ブレーカーが落とされているのか、部屋の中は暗い。静かだ。目に入るのはいきなりキッチン。その奥にはまた扉。
真夜中みたいにしんとしている。最後の人が出ていってからしばらく経つのか、少し埃っぽい空気が鼻をくすぐってきた。
誰も住んでいないはずなのに、見えない何かの寝息が聞こえてきそう。
おじゃまします、と誰に向けるでもなく小さな声で呟いて、私はローファーを脱ぐ。
大学の合格発表にひとしきり喜んだあと、勢いにまかせて駆け込んだ駅前の大手不動産。
出してもらった湯飲みに手もつける余裕もなく、間取り図が描かれた紙とにらめっこして長時間が経っていた私に、「じゃあ、実際に見に行ってみますか」と優しく提案してくれた。
そう、これは、私のお部屋探し。ここは気になったアパートのうちの、最初のひとつ。