第39章 始まりは睫毛より上(花巻貴大)
*おまけ*
姉貴は風呂が好きだ。そして入浴時間が半端なく長い。そんな風呂でやることあるか!?と思いたくなるくらい長い。
「女の子はね、お風呂から上がった最初の5分が勝負なの」
口癖のようにそう言う姉貴は、風呂上がりは本当に忙しない。肌の保湿、髪の保湿。体重の測定とドライヤー、そんでリンパマッサージ。いろんなところにいろんなものを塗りたくっているのを目にするのが日常だったもんだから、どの女子も似たような生活を送っているのだと思っていた。
「みょうじ、ちょっと聞いていいか」
「あ、花巻くん。なに?」
こいつはいつも何してんだろ?
「お前さ、毎日風呂入るよな?」
「えぇ…そのレベルからの確認?入るよそりゃ」
「上がったら、まず最初に何してる?」
みょうじは、『またトチ狂った質問を』という顔をしていた。こいつって考えてることがすぐ外に出るからわかりやすい。
「お風呂から上がったら? んーーーー」
顎に人差し指を当て、みょうじはしばらく考えていた。それからパッと表情を明るくして言った。「アイス食べるかな!」
アイス…だと……!?
その発想は無かったわと衝撃が走る。
うちでそんなことしたら姉貴にぶっ飛ばされるわ。
「最近暑いしねー、美味しいよねアイス」
えへへ、と笑うその無邪気さがこえーよ。
え、もしかしてコイツあれなの?風呂上がりの勝負5分間ずっとアイス食ってんの!?
「じゃ、じゃあ髪は?」慌てて質問を重ねる。「さすがに乾かしたりしてんだよな?」
「あぁ、うん……まあ、花巻くんが聞いたら怒るかもしれないけど…………最近はね……せ、」
「せ?」
「扇風機で」
「すぇんぷうきぃー?」
どひゃー、とずっこけるしかなかった。信じられん。意味がわからん。岩泉と同じじゃねーかそれ。
「おい、みょうじ」
「花巻くん目が怖いよ花巻くん」
「今度うちに泊まりに来いや」
「え」
「だから、俺ん家の風呂に入れっつってんの!入浴から寝るまで徹底的に見張っててやる」
「やだ」
「やだじゃない!」
ギャーギャー騒いでいたら、後日松川に「お前あれ彼女できたん?」と聞かれたので否定しておいた。
ーーー
おしまい