第37章 静謐な人々(牛島若利)
シャープペンシルの芯を補充しながら「おかしいよね、どうせいつかは死ぬのに」と文句を言うと、正面に座るなまえが苦笑した。相変わらずのことなので、わたしは構わず言葉を続ける。
「大体さ、受験っつーか、勉強する意味がわかんないよね。やれば、上がる。でもやりたくない。人間勉強したって死んだら終わりよ?地味に脳みそ鍛えたって最後は火葬場で焼かれて骨になるだけ。だったら残る骨を育てた方がマシだよね。 カルシウムとか、乳製品食べてさ。そうよ、遺族がうっとりしてしまう程に美術的価値の高い骨を焼却炉から産み出すの。すみませーん!チーズの盛り合わせ1つ追加でくださぁい!」
右手を上げてウェイトレスを呼ぶ。「かしこまりましたー」と丁寧なお返事をもらいわたしは満足して志望校の入試過去問題集、通称赤本の表紙をパタンと閉じた。いや、このままでは大学受験に落ちてしまうぞ、と現実を思い出しまた開く。うん、違うな、ちょっとドリンクバーのおかわりに行ってこよう。
グラスを右手に椅子から立ち上がると、なまえがノートから顔を上げる。「さっき話してくれた、薔薇色のキャンパスライフとやらはどうなったの」と尋ねてくる。
「それはだねキミ」振り返り、次の言葉に詰まる。代わりに「さっきと同じコーヒーでいいかな?」となまえの前にある空のカップを持ち上げた。
なまえは微笑み、「ありがとう」とだけ言うと、手元の問題集に視線を戻した。