第34章 ノー・コンテスト!(二口堅治)
重たげな音を立てて、隣の机に鞄が乗った。「あ?知らねーよ」と彼が笑いながら男子の会話をあしらっていた。私は意を決して顔を上げ、「二口、」と彼に呼び掛ける。
「お、おはよう、二口」
「おう」
彼は短く返事をして席に腰を下ろすと、鞄の中から筆記用具たちを引っ張り出して、やや雑に机の中へと移していった。
「なまえさぁ、製図終わった?昨日の」
「まだ。最後につじつま合わなくなっちゃって」
「俺も」
仕上げにドン、と鞄を床に降ろして、彼は頬杖をついた。「めんどくせーよなぁ、なんでこの時代に手描きだよ」
ぼやきながら、空いている方の手で机をとん、とん、と叩いている。
「アナログだと、時間かかっちゃうよね」
「かかる。でも、なまえは綺麗な線引くよな、すげーわ」
とん、と音が止まって、彼の目線がこちらに向いた。「っていうか、髪、イメチェン?」
長い指を向けられた。う、と返事に詰まった私を見て、「珍しく気合い入ってんな~」と頬杖をついたまま、彼は楽しそうにニヤリと笑った。「なに、告白でもすんの?」
「へッ!?」
びっくりして、私は慌てて背もたれに手を掛けた。思いきり椅子を引いて彼との距離をとる。
「………は?」
彼がパチパチと瞬きをした。「いや、だから、こくーー」
「え、え、え!?」
「は?なに、図星?」
「いや、違………え、何でわかったの!?」
「あ、ガチで!?」
ーーーいや、待って待って待って!
身体中の熱が、一気に顔に集まってくる。
「マジか、」
ぽかんとした顔で、彼は私を見ていた。「誰に?」
「や、違…っていうかなんで?なんで先に言っちゃうの?」
「俺は冗談のつもりで……」
「バカ!」
「は?」
「二口のバカ!」
いきり立って髪の毛のゴムをほどいた。あッ、と二口が声を出す。
「なんで取るんだよ」
「知らない」
マジかよ、と彼が言った。
私は無視してそっぽを向いた。
今日こそ、軽く雑談ついでに『放課後、ちょっと時間ある?』と誘い出すつもりだったのに。
指に絡まるゴムを見る。
これじゃあ全部台無しだ!
下唇を軽く噛む。失敗だ。手ぐしで髪を整えるものの、気持ちはすぐには切り替わりそうもなかった。
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ノー・コンテスト【無効試合】