第30章 Everything is up to you(白布賢二郎)
「そう言うなまえは、俺のこと好き?」
「好きよ」
「じゃあ、バレーを好きな俺と、バレーを好きじゃない俺、どっちが好き?」
「そりゃあ、」彼女が一瞬口ごもる。「バレーを好きな賢二郎が好きよ。試合中の貴方って、とっても格好いいもの」
「だよね」と彼は色素の薄い前髪を指で払う。「俺も、バレーが好きな俺を好きでいてくれるなまえが好き。それでいいだろ」
わかったわ、となまえは鼻で笑った。「私たち、三角関係ってわけね」
そしておもむろにソファから立ち上がると「ねぇ、私最近変わったと思わない?」
数歩、前に進み出てくるりと軽快に回って見せた。
彼女がそういうことを言い出すときは、自らに施したささやかなイメージチェンジに気づいて欲しい時が常だった。例えば、ネイルの柄や、靴下や、眉毛の形の変化。
ふむ、と白布は呟いて、持て余していた本を傍らのサイドテーブルへと乗せた。
「確かに、前とちょっと違うかもしれないな」
彼はスリッパを履いた足を組み直し、ふぅむ、と彼女の輪郭を指でなぞるような仕草を見せた。
「そうだな……髪が長くなったね」
「そりゃあ、放っといたら伸びるわよ」となまえはすまして横を向く。「髪の毛くらい、何よ」
「少し痩せた?」
「本当?体重は変わってないけど、」
それじゃあ、と白布は彼女の頭から爪先までを注意深く眺めた。「服の趣味は変わってないね、アイメイクも特に同じだと思うけど……」
そして、「あぁ、なるほど。わかった」と微笑んだ。
「目がキラキラしてる」
その言葉を聞いて、なまえは嬉しそうににっこり笑った。ソファへぱたぱたすとんと舞い戻る。
「ね、賢二郎」と腕を絡める。「私ってかわいい?」
「かわいいだろうね」
「私のこと好き?ね?」
「うん、そうだね」
白布は座る身体の向きを斜めにずらし、彼女と向き合う形をとった。
「キミは他の子と比べて、外見の華やかさではやや劣るかもしれない。でも、」空いている手で恋人の頭を撫でて、その手を顎へと滑らせる。「努力してどんどん可愛くなっているところは、好きだ」