第25章 スイッチはどこだ(木葉秋紀)
「俺は、行かねーよ!」
目の前を行き交う車に負けじとなまえに叫び返すと、隣の赤葦も、大きく息を吸い込んで口の横に手を当てた。
「お二人で、行ってきてください」
相変わらず、穏やかで伸びやかな応答だった。遠くのなまえが、両手で大きくOKのサインを出したところで、そうなんですよ。と赤葦は小さな声で呟いた。見ると、赤葦も俺を見ていた。そして、綺麗に整った顔を歪めて言った。
「この場合は、俺が悪なんです」
自分より、背が高いからかもしれない。所作がいちいち細やかだからかもしれない。時折、この育ちの良さそうな後輩と話していると、自分が酷く幼い人間のように感じてしまう。
「おい、小見春樹!」と木葉が叫んでいた。車の雑音に紛れながら「これでペナルティは無いよな!!」と聞こえた気がした。
視線をずらし、「なにが、」と言いかけたところで俺は、口を開けたまま固まった。赤信号の下で、木葉が背中を曲げてなまえにキスを落としたからだ。げ!と俺が慌てて下を向くと、赤葦も、「あぁ、もう」と諦めたように笑って空を仰いだ。
「最ッ低な先輩だ」
———あぁ、つまり、なんだかんだ言ってラブラブってわけですね。
羨ましいよなーこのやろー。
その幸せ、こっちにもわけてほしいよな。
木葉さんのおこぼれなんてご免です、って?そんなこと言うなよな。俺はそれでもほしい。幸せがほしい!そしてやっぱりあいつが憎い!
なぁ、ちょい赤葦、手が空いてるなら、ちょっと探してきてくんねぇかな……何を、ってお前、決まってんだろ。この世のいちゃつくカップルをみんなみんなみーんな、宇宙ゴミにしてやんの。だから一緒に押そうぜ。あの秘密結社の、伝説の、悪魔の兵器の、リア充全員爆発させる、
『スイッチはどこだ』
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映画でも小説でも、押すのはいつだって自分の存在意義を確かめたい奴。