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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第24章 空気と一緒に動くの(木兎光太郎)




私はジェルネイルが趣味だと友人に話したら、マニキュアとは違うのかと質問された。

マニキュアは乾かすもので、ジェルは固めるものだ、と写真を見せて説明すれば今度は、じゃあ私にもお願い、とキュートに頼まれる。その後に、彼氏と放課後デートするの、と言葉が続いた。まるで彼氏持ちの女子は、何か特別な権利を付与されているかのような言い方だった。

断りきれず、いいよと1人に応じたら、私も私も、と他の子達もずるずる連なってきて、芋づる式に掘り出されるサツマイモが頭に浮かぶ。

友人であれば、あの子がやってもらえるならば、私もタダでやってもらえて当然。そんな考えなのだろうか。なんて図々しい芋たち。と私は思った。いっそ清々しかったし、私も私で、クラス内の所属グループは失いたくない。だから、全ての人に、いいよと言った。

そうだね。今では後悔しているよ。土台、趣味の話なんて、同じ趣味を持つ人以外には語るべきじゃないんだよ。勉強になってよかった、と自分には言い聞かせてる。


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「では最後に、仕上げのトップジェルを塗りまーす」

わざと笑顔で戯けてみせて、机の上のネイルブラシを手にとった。うーす、と無気力に返事をするクラスメイトの友達は、先ほどから右手を私に預けたまま、左手でスマホをいじり続けている。

私は口角を上げて、ピンクと灰色の斜めストライプが浮かぶ彼女の爪に、コーティング用の透明なジェルを乗せていく。早く帰りたい。だとか、厚かましい子。だとか、もっと感謝しろとかお金払ってよとか、そんな心の声はジェルと一緒にはみ出さないように気を付ける。

放課後の教室でこうやって、時々友人の爪を可愛くしてあげるのも私の趣味の範囲内。かけがえのない大切な友人のため。そんな顔をして筆を動かす。

持ち運びにぴったりの、ジェルを固めるためのペン型LEDライトも”たまたま”私が買っていただけで、慎重に学校へ持ってくるネイルセットも、運動部の持つ大バッグに比べれば全然重くない。だからこの簡易ネイルサービスの提供は誰の負担にもなってない。そんな風を装って私は彼女たちの爪に筆を乗せる。

これで良いのだと私は思う。みょうじなまえはいつだって、機嫌と気前が良い女子なのだ。と暗示をかけ続けることがきっと、今後の私の人生を助けるんだと信じているから。情けは人のためならず、だ。
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