第19章 まだネンネだもんね(日向翔陽)
*
なまえさんは、いつも髪の毛をポニーテールに結んでいます。
(なんだろ。なんだろう)
けれど、「今日はいつもと違う」と、日向くんは感じたのです。
(なまえ、なんかフインキ違う)
けれど、どうしてなのか分かりません。
(背中の広さは、いつもと同じ)
なまえさんの席は、日向くんの席の1つ前です。
(黒のほわほわも、いつもと同じ)
「じゃあこの問題を……みょうじさん」
「はい」
(そうだ。このほわほわ、シュシュって言うんだっけ。夏が最近集めてるやつ)
「アレクサンドル2世」
「はい、正解です。昨日やったとこだものね。農奴解放令を出した1861年は———」
(頭がいいのも、いつもと同じ)
「じゃあ次の問題、日向くん!」
「!? ぅハィ!」
世界史の先生が席の順に当てて行くのも、いつも通りだね、日向くん。
*
「えー、つまり、この金属元素と非金属元素の結合っちゅうのは———」
(なんだっけ、この、首の根元の部分)
「———陽イオンと陰イオンによる、イオン結合、というものでして、」
(スガさんが好きって言ってたところ。うなぎ……じゃなくて)
前の席のなまえさんが、黒板を見ようと頭を動かすたびに、ポニーテールがゆらりと揺れます。
(あ、”うなじ”?)
なまえさんの首は、白くて綺麗です。
けれど日向くんにとっては、首は首でしかありません。
(「首のどこがいいんですか?」って聞いたら、スガさん、「日向はまだ子供だからな〜」って言ったんだよな。あれはちょっとムカついた)
「えー、そんで、非、金属元素どうしの結合は、ですね、」
(スガさん的には、この首はどうなんだろう。やっぱ、”く〜っ!”って感じなのかな)
スガさんは、『うなじがキレーな女子って、見てて、”く〜っ!”って感じするよな!?』と言っていました。
「価電子を互いに共有して結合する、共有結合と言うんですね」
(………………)
「電子を共有することで、えー、この最外殻電子が8個になるようにですね、えー……」
(……もう考えんのやめよ)
なんだか、もやもやしてしまいました。