第18章 宇宙的浮遊感(岩泉一)
練習後の部室って、なんでこう、むさ苦しいんだろうな。汗とスプレーの混ざった匂いとか、運動後でテンションの高い男どもとか。
むわりと湿度の高いこの部屋で、喉の奥に張り付く生ぬるい空気の塊が不愉快だった。一番乗りに入った国見が、真っ先に開けた窓だって、ちっとも換気に役立っていない。風の通り道ができないなんて、どーゆー設計してんだこの部屋。
さっさと着替えて、この蒸し風呂状態から脱出しねーと。そう考えながら汗の染みたTシャツを脱いだ直後、右肩がずしりと重くなる。
「なーあ、岩泉んとこの副委員長って、肌綺麗だと思わねぇ?」
花巻が俺の肩に顎を乗せていた。にやにやしている。「はぁ?」と聞き返すと、「おとなし美人、って感じだよな」とバランスをとるように反対側の肩も重くなる。松川だ。
「知らね。あんま話したことねーし。つーかお前ら重…」
「今日さぁ、」
俺の文句を花巻が遮った。「その子に聞かれたんだよなぁ。”岩泉くんて、彼女とかいるんですかー?”って」
ぴ、と上目使いに俺を見てくる。んなことより、着替えの途中で上半身裸の男にくっつかれたくねーんだけど。
「隅に置けないですなぁー、我らの副主将も」
煽る松川はシャツのボタンが全開だ。
「あー!マッキーまっつん!2人して両側から岩ちゃんの耳攻めなんてやーらしー!」
ガクン、と膝が落ちかけた。どうせ後ろから及川が覆い被さってきたんだろ。なんでわかるかって、重いし、熱いし———
「なになに?カッコいいとは言われるものの、誰からも告られない可哀想な岩ちゃんの話ー?」
———とにかくウザい。
ぎりぎりと大腿筋への負荷が増す。真後ろから矢巾の、「重そ……」と呆れる声が聞こえた。
今自分がどういう塊になっているのか知らないが、汗臭い男3人分の体重を支えていることは間違いない。
「いやー、誰か”本命は岩ちゃん!”って子、いないもんかなー。ご存知ないですか、花巻さん?」
「いるんじゃないすかー、1人くらいは。ねぇ松川さん?」
「案外近くにいるかもわかりませんねー」
だー!もう!ウゼぇ!
「お前ら!暑苦しーんだよ!いい加減離れr…」
言いかけたところで、頭が会話に追い付いた。
こいつら、一体何の話をしてんだ?