第17章 Soliloquy(菅原孝支)
「私が二股かけられてるって教えてくれたことも、たくさん、相談も愚痴も聞いてくれたことも、すごく感謝してる。でもね、」
彼女の声から、ゆっくりと色が消えていくようだった。「私は多分、あの人じゃなきゃだめなの」
「……浮気するような奴でも、良いの?」
血の気が引く感覚がした。魂を抜かれるみたいに、頭の先から浮いてっちゃいそうだ。
なまえは、1度だけ頷いた。
「騙されたままでいいから、あの人とずっと一緒にいたかった」
そう言うと、それっきり、無言になってしまった。
つまり、
つまり俺は、なまえの幸せを壊した男、だったわけ?
そんな、誤解だよ。
ただ、なまえを幸せにしたかっただけなのに。
ほとんど飲んでいない薄まったアイスコーヒーのグラスについた水滴を見つめながら、校舎窓から見たアイツとなまえの背中を思い出していた。それを黙って見ることしかできなかった自分のことも。
じゃあ、その気がないのに、どうして俺と遊んでたんだよ。
負け惜しみを言おうともしたけれど、泣きそうななまえの顔を見た途端、何も言えなくなってしまった。
どうしたらいいかわからなくて、途方に暮れてしまって、店内に流れる小さなピアノの音を聞いていた。
悲しいわけでも、腹が立ったわけでもなかった。
ただ、席を立とうともしないなまえを前に、彼女もまた、俺と同じ弱い人間なのかもしれないな、と考えていた。
おしまい
*次ページ、あとがきあります。