第17章 Soliloquy(菅原孝支)
「いらっしゃいませ!本日はご来店、ありがとうございまーす。お冷やをお持ち致しました!」
快活な挨拶が聞こえ、目の前に水の入ったグラスが2つ置かれる。手際が良いのに、とても丁寧。
テーブルを挟んで向かい合わせに座っていたなまえが「ありがとうございます」と女性の店員にお礼を言いながら、テーブル端にある紙ナプキンをとり、コースター代わりにグラスの下へと敷いた。
几帳面だなぁ。と感心していると、ぱちんと目が合う。視線のやり場に困ってしまって、俺は、逃げるように店員の顔を見上げた。
「ご注文はお決まりですか?」
あ、可愛い、
と直感的に思ってしまった。口角が上がっていて、目尻が下がっている。早起きして見る朝の女子アナウンサーみたいな笑顔。白いシャツと、ブラウンのベレー帽の制服もよく似合ってる。
「私は……どれにしようかな。菅原くん、決まった?」
「ん?」
ぱちん、とまたなまえと目が合った。一瞬の沈黙。やばい、と思うより前に「アイスコーヒー」と口が動いた。「お願いします」
「じゃあ私も、同じので」
「かしこまりました。アイスコーヒーおふたつですね」
はい、と返事をした声が少し掠れた。平静を装って水を飲む。俺の馬鹿、と自分を罵る声が脳内リピート。
気付かれた。絶対バレた。
よりによって、なまえの前で他の子に見とれちゃうなんて。