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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第15章 そよめきなりしひたむきなり(木葉秋紀)


なまえは泣きそうな顔をしていた。彼女の持つ、なけなしの勇気を振り絞って、「だって、おかしいよ」と言った。「私なんかに絡んだって、何も良いことなんてないのに」

「ちょっと!」
木葉は盛大に吹き出した。「それどういう意味なのみょうじさん。自己評価の低い子とお近づきになりたいと思ったら駄目?」

「駄目っていうか、」
彼女の瞳は潤んでいた。「何か罠の匂いがする」

「よく言われるけど、ひっでぇよなそれ。俺は悪巧みなんてしないのに」

あー、わかった。と木葉は愉快そうに喉を鳴らして、スラックスのポケットに親指を突っ込んだ。「みょうじさん、俺のことなんか勘違いしてるでしょ。地味な女子には見向きもしない男に見える?」

「わかんない……木葉くんて、その……不思議な人だし」

「不思議だってさ!」
彼は声をあげて笑った。「じゃあこれはあれだ。俺のこと、なんかすんげー奴だと思ってるパターンっしょ?」

「思っ……てる。だって、木葉くん、なんでも簡単にできちゃうから」

「嘘でしょ。嘘だよ、それ。気付いてねーの?」

そんじゃー、みょうじさんにだけ特別、教えてあげる。と彼は足元のギターを軽く蹴飛ばし、背中を曲げて彼女と目線の高さを合わせた。

「俺は勉強が嫌いだからサボってばっかで成績ヤバいし、バレーのこともなんとかなるっしょって考えてる適当で不真面目な男だよ。今日ギターを弾いたのだって、女子の前で格好つけたかったから。けどさ、俺3つしかコード覚えらんねーの」

CとGと、G7。と指を折って数えた彼は、正真正銘、照れくさそうにはにかんだ。「実は1曲しか弾けねーんだよ。あれが一番簡単な曲。ほら、分かったらさっさと荷物まとめて来いよ、馬鹿」


いや、馬鹿は言い過ぎだな。悪い。と彼は素早く訂正をして、目の前の少女の身体をくるりと半回転させた。そしてこれから自身の学習能力の低さを露呈しなければならない恥と向き合うべく、その美しい指で彼女の背中を優しく、そっと前へと押し出した。







(ジャンバラヤ
ザリガニパイとヒレガンボ
今夜は可愛いあの子と会うから
ギターを持って
フルーツ瓶をいっぱいにして
陽気にいこうよ
あぁ、もう畜生 ここで楽しく騒ごうぜ)


── Jambalaya / Song By The Carpenters ──





おしまい
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