第16章 火傷
銀時「うぉ!?」
気づくと、私は銀さんの体を押し返していた。
『あ、ごめ…でも、もうだいぶ冷えたし大丈夫だから…』
火照った顔を見られたくなくて俯きがちになる。
銀時「そうか?気をつけろよ」
銀さんは特に気にした様子もなく、水のついた手を払いながらさっきまで飲んでいたであろうペットボトルを冷蔵庫へ戻した。
『うん…』
…心臓うるさい。一回止まれ。
銀さんに背を向けて鶏肉を油へ落とすと、胸の音をかき消す様に油がパチパチと音を立てて跳ねる。
神楽「今日は唐揚げアルな!」
揚げ物独特の香りが部屋を満たし、居間に居る神楽ちゃんの嬉しそうな声が聞こえた。
銀時「さくら」
『…ひぁっ』
名前を呼ぶ声とともに、首筋にひんやりとした感覚が走る。
『ちょっと!油使ってんのよ!危ないでしょ!』
驚いて振り返ると、しまったはずのペットボトルを持った銀さんがニヤニヤしながら立っていた。
さっきの冷たいのはこれか。
銀時「ん」
『?』
ただ黙って自分の眉間を指さす銀さん。
銀時「皺」
『あ…ホントだ』
フッと力を抜くと重かった頭が軽くなる。
銀時「考え事だかなんだかしらねーけどよ、無理してんなよ。つーか無理する前に頼りなさい」
銀さんは私の頭をワシワシと不器用に撫でながら少し怒ったふうに言った。
『うん…ありがと』
マダオのクセに…
急に優しくしないで欲しい
困るから
なんか…困る
銀時「それと」
『?』
入れ替わるように銀さんが眉間に皺を寄せる。
銀時「俺ァ型に嵌った小奇麗な奴なんかより多少薄汚れちまった奴の方が好きだけどさ?それは…ちっとヤバイんじゃねーの?」
私の後ろを指さすとすぐに背を向けて居間へ戻っていく銀さん。
私は意味が分からず首をひねった。
『は?何そのちょっと深イイ話…』
しかし、私はその言葉の意味をすぐに知ることになる。
『まあいいか。後は盛りつけてー…』
余計な思考を捨てて心機一転。
美味しく狐色に揚がったであろう唐揚げを油から上げようとしたとき、私は銀さんの言う言葉の意味を理解した。
『あぁぁぁあぁ!』
油の中で泳ぐ鶏肉たちは、狐色を超えた、お妙ちゃんでいう卵焼きの境地にまで至っていた。