第15章 庶民の暮らしは198(いちきゅっぱ)
『…はぁ』
2つのスーパーを駆け回り、数多の死線をくぐり抜けた私はかなりの体力を消耗していた。
『あとは…お一人様1パックの…卵だけ…』
気力を振り絞り、グイッと額の汗を拭って戦利品を両腕に携えると、勇み足で大江戸スーパーを目指す。
知り合いとか通らないかな…
一緒にレジに並んでもらえれば沢山買えるんだけど…
思わず主婦のような考えが脳裏をよぎって辺りを見回す。
『…いないか』
世の中そんなに甘くはなかった。
私はひとつため息をつくと、落胆した気持ちを引っぱり上げて背筋を伸ばした。
その時
「随分と重てェもんぶら下げてんですねィ。世の中の女は大変だ」
後ろから声が掛けられ、両腕の重さが突然なくなった。
聞き覚えのある少し低い声に振り向く。
『総悟…』
沖田「昨日ぶりですねィさくら」
そう言ってニコリと笑う総悟。
沖田「手伝いまさァ。こんなの持ってたらさくらの腕が取れちまう」
『え…いいの?』
いつもと違って毒気のない優しい瞳で微笑む総悟に、つい疑うような口調で聞いてしまう。
しかし、彼は特に気にした様子もなく答えた。
沖田「へい。ちょうど巡回も終わって暇でしてね」
『あ。そうなんだ…』
出来れば、出来ることなら、総悟には会いたくなかった。
だって私は…まだ総悟への気持ちが決まってない。
総悟「さくら?」
総悟の無邪気な瞳が伺うように私を見つめる。
『…』
でも…せっかく手伝ってくれるって言ってるのに邪険にするわけにもいかないよね…
『それじゃあ…お願いしようかな。これから大江戸スーパーに行くんだけど一緒にレジに並んでもらえる?1人1パックなんだ。卵』
沖田「わかりやした」
そう言って大江戸スーパーのある方へと歩みを進める総悟。
『…』
私はその背中のあとを黙ってついていった。
土方「オイ」
否、行けなかった。