第12章 約束
『あ…の、銀さん?』
動揺するさくらが名前を呼ぶ。
銀時「悪い…ちょっとだけ」
『…うん』
さくらの柔らかい黒髪が揺れ、さっき感じた甘い香りが微かに頬を撫でる。
銀時「アレ、付けてくれたんだな」
『…っ。だって…貰ったまま付けないわけにはいかないでしょ』
銀時「…だよな」
そうだ。
あげたもん付けたってコイツにとっちゃ大した意味は無い。
きっとさっきの台詞も深い意味はないわけだ…
銀時「…悪い」
我に返って体を離そうとした時、
香水の香りに混ざって少し苦い匂いが香った。
それと同時にさくらを探して駆け出した野郎の背中を思い出す。
銀時「…」
それは、俺の心を掻き乱すにはあまりにも充分すぎた。
『銀さん?』
体を浮かせたままフリーズする俺をさくらが見上げる。
銀時「…」
さっきコイツは土方に呼び出された。
この距離で香る煙草の匂い。
それに加えてさくらは土方に惚れてると来た。
もしかしたらもう…
銀時「多串君と、仲良くやれよ」
『え?』
考えるよりも先に口をついていた言葉にさくらが目を丸くする。
銀時「いや…お前ェいっつも暴言吐いたりすんだろ。愛想つかされねぇように気をつけろってこった」
『待って!…なんの話?』
咄嗟に言い訳をするとさくらがそれを遮る。
銀時「なんのって…アイツと付き合ってんじゃねェのかよ」
『付き合ってないよ…?』
銀時「は…」
不思議そうに見上げる瞳に抑え込んでいた感情が爆発しそうになる。
銀時「…」
今までの様にこの感情に蓋をしてしまえばどんなに楽か、俺は知ってる。
蓋を開けてしまう事がさくらを苦しめるのも分かってる。
銀時「すまねぇな」
『?』
だが、俺は抑えつけておく事が出来なかった。
銀時「いいか、一回しか言わねぇからな」
『うん?』
銀時「…なぁさくら」
俺は緩めていた腕でさくらをきつく抱きしめ
銀時「好きだ」
蓋を開けた。