第12章 約束
〜さくらside〜
『…え』
思っても見なかった言葉に鼓動が早まる。
銀さんの厚い胸板から少し早い胸の音が聞こえてくる。
銀時「悪い…」
今日何度目か分からない謝罪の言葉を銀さんが囁いた。
銀時「俺を選べなんてこたァ言わねェよ。俺はお前ェを幸せにする自信なんて無ェ。寧ろその逆だ。だから…」
『…』
体を少し離されて視線がぶつかる。
私の顔を見た銀さんは、少しハッとした様に目を見開くと自嘲気味に笑った。
銀時「…悪い。そんな顔させてんのは俺だよな。そんな苦しそうな顔すんなよ」
私を見下ろす紅色の瞳が悲しげにゆらゆらと揺れる。
銀時「俺ァ結局そういう顔しかさせられねェからよ。だから…お前は土方を選べ」
『…え』
銀時「お前は…幸せになれ」
『銀さ…』
新八「さくらさーーん!」
神楽「さくらーー!」
優しく微笑んだ銀さんの真意を知りたくて名前を呼ぶと、遠くから聞こえてきた新八君達の声にかき消された。
銀時「アイツら待ってろって言ったのに来やがった…んじゃ、行くか」
そう言った銀さんは、回していた腕を外すと子どもをあやす様に私の頭を軽く叩いて背中を向けた。
あ、何か…言わないと…
『あ、の…』
銀時「んー」
いつもの様に気だるげに振り返る銀さん。
『…えっと…』
声を掛けたはいいものの、何を話したらいいのか分からない。
『だからその…』
ヤバい、どうしよ…何も考えてなかった
銀時「あ」
『…え?』
しばらくフリーズしていると、銀さんが声をあげた。
銀時「どーでもいいんだけどよ」
『…うん』
さっきまでの優しい笑みではなく、子どもの様に無邪気に笑う銀さん。
私はその笑顔に見とれた。
銀時「今日のそのカッコ…すげぇ好き」
『…っ!』
頬に熱がたまる。
心臓がドクンと跳ねた。
銀時「んじゃーまぁ、そろそろ行くか」
『…』
そう言うと、白いくせっ毛をフワフワと風に揺らしながら銀さんが前を歩く。
『…』
綺麗な髪…
銀時「ほら」
『…え?』
ぼうっとしている私に銀さんが肩越しに振り返る。
銀時「いくぞ」
『うん…』
私は、呆れたような銀さんの声に頷くことしかできなかった。