第21章 落とし物
翌日
『ありがとうございました』
タクシーのおじさんに頭を下げると、運転手さんが優しく笑ってドアを閉めた。
少しずつ小さくなるタクシーを見送る。
凄い優しい運転手さんだったなぁ…
お腹おっきくて運転席苦しそうだったけど。
『行くか』
風の吹く小高い丘を登って行くと、小さな建物が徐々に見えてきた。
赤いレンガの壁。
昔は綺麗な赤だったのに、もうずいぶんくすんでしまっている。
アイビーの蔓が壁を伝い伸びていた。
『8年ぶり…』
古いリボンが付いた鍵を鍵穴に通すと、噛み合わせが外れる音がする。
『…ふぅ』
ドアの木目をなぞって深呼吸。
ずっと逃げてきた。
『…来れなくてごめん』
重い扉を押し開ける。
外からの風に舞ったほこりが、光に照らされキラキラと輝いた。
『ただいま』
私の帰るべき場所。
沢山の思い出の詰まった場所。
先生と過ごした時間が詰まった場所。
私は、18年過ごした孤児院にやって来た。