第19章 繊細な美
『あの…』
土方「…」
『痛いんですけど』
土方「…」
『言葉のキャッチボールしませんか。投げた球全力で見送るのやめてもらえませんか。このままだと土方さんの足元に溜まってく一方で私の球無くなるんですけど』
土方「…」
『…』
あ、やべ。
球切れた。
それでも土方さんは手を離してくれない。
オィィィ!やーめーろーやァァァ!
球無ぇって言ってんだろーが!
グローブ投げんぞ!
…嗚呼、もういいや。
面倒くさくなって無抵抗を貫く。
暫くすると、頭を鷲掴みにしていた土方さんの手が止まった。
土方「…良い親だな」
『…え?』
突然降ってきたのは意外な言葉。
何とも言えずに固まっていると、止まっていた手が離れ、手の主は視線をまた芙蓉に戻した。
今のは…慰めてくれたのかな
『…ふふ』
まだ視線を逸らしたままの土方さんの耳は少し赤い。
『もうちょっと優しい親でしたけどね。怒ると恐いのは鬼の副長さんと似てますけど』
土方「…そうかよ」
そう言った鬼の副長は薄く笑う。
息苦しかった空気はいつの間にか消えていた。
その時、
ヒュンッ
『!?』
突然抜刀した土方さんが鞘から抜かれたばかりの刀を槍投げよろしくぶん投げた。
あれ?なんかこれ見たことある…?
『なんでまた突然…』
壁に突き刺さって撓り、音を立てる刀の方を見る。
その先には…
隊士s「ヒィッ」
こちらを影から覗いていたであろう隊士達が立ち竦んでいた。
土方「山崎ィィィィ!」
山崎「は、はいっ!」
土方「30分はトイレ行っとけっつったろーが何で行ってねェんだ!」
山崎「はい行きます!すぐ行きます!」
同じセリフを繰り返し、慌てて逃げる隊士達。
土方「オイ山崎、ちょっと待て」
山崎「な、なんスか…」
振り返るジミー。
視線の先には薄気味悪くにっこり笑った鬼。
土方「お前だけ後で切腹な」
山崎「何で俺だけェェェ!」