第19章 繊細な美
山崎「どうぞ、入って大丈夫ですよ」
『う、うん』
中へ入るように促され、戸の陰からそっと中を覗く。
屯所の奥へと隠すように建てられたそこで私を待ち構えていたもの、それは…
パァン!
「「せいっ!せいっ!」」
竹刀のぶつかり合う音と掛け声、そして青春の代名詞、男達の光る汗だった。
『…』
"真剣"を持ち、相手を斬ってでもねじ伏せるための稽古。
部屋全体に広がる異様な雰囲気に思わず立ち竦む。
女の私がここに立ち入ることは許されるんだろうか。
山崎「さくらさん?入らないんですか?」
痺れを切らしたジミーがいつまで経っても戸の陰から出てこない私に訝しげな目を向ける。
『う…えーと…私は女だし、その上ここにいる人の大半は私のこと知らないから…ちょっと入りづらいなって思って…』
山崎「あぁ!確かに入りづらいかも。すいません、気づけなくて…」
童顔タレ目のジミーがシュンと項垂れる。
『いや!ジミーが謝ることじゃないよ!寧ろわがまま言って連れてきてもらったの私だし…』
やめてェェェ!反省なんぞせんでいいんだよ!
私の周りにそういう純朴少年タイプの人いなかったから困る!天パ然りドS然り!
山崎「そうだ!じゃあ俺、副長のこと呼んできますね!」
『あ、いや、大丈夫!行けるよ!』
どこまでも気を遣ってくれるジミー。
申し訳なくて引き止めると、彼は垂れ気味の目尻をさらに下げてふにゃりと笑った。
山崎「いいんですよ。竹刀振り回してるから危ないし。それに、アンタをこんなむさ苦しい所歩かせてたら、副長に怒られちゃいますし」
そう言って背中を向けると、隊士達の間を縫って歩いていく。
『…行っちゃった』
未だに残る罪悪感を抱えながら、少し線の細い背中を視線で追う。
暫く歩いた後、その背中は不意に立ち止まった。
『あ』
その視線の先に居たのは
土方「小手先だけで剣を振るんじゃねェ。体全体を使って剣をさばけ」
静かに、それでいて有無を言わせない強制力を持つ声で隊士をしごく鬼の副長、土方十四郎であった。