第17章 夢幻
時計の針もだいぶ進み、もう夜の8時を過ぎてしまった。
「次はランキングのコーナーです」
豪華アーティストに囲まれたタモさんが、美人アナウンサーと一緒に音楽番組をやっている。
『そういえば神楽ちゃん』
神楽「?」
テレビの中では、寺門通のファンがお通語を叫んでいる。
今頃新八君もテレビの前であんな感じかな。
『私が寝てる時、何であんなに顔近かったの?』
神楽「さくら寝ながらすっごいうなされてたヨ。怖い夢でも見たアルか?」
『え…』
何だっけ。
覚えてない。
神楽「覚えてないアルか。でも嫌な夢は忘れるに越したことないネ。女なんて三日もすれば振った男の事なんて忘れてしまうって私のマミーがしょっちゅう言ってたヨ」
銀時「随分強かなのねお前ェのマミー」
『忘れる…それもそうだね』
最後の一つになった唐揚げを口に運ぶ。
夢…見てたんだっけ…?
何も思い出せない。
けど、忘れちゃいけない気がする。
神楽「さくらさくら」
『ん?』
ぼーっとしていると、突然神楽ちゃんが袖を引いた。
神楽「美味しいアルか?それ」
袖を掴んだままの神楽ちゃんは曇り無き眼で私を見つめる。
『え』
…どういう事。
美味しくなかったのかな…
遠回しにまずかったって言われてんのかな…
『えっと…どうして?』
怖いのでとりあえず聞いてみる。
すると、神楽ちゃんは目を輝かせて叫んだ。
神楽「幸せって美味しいアルな!」
「『…』」
突然の深イイ話に銀さんまでもがフリーズ状態。
それでも神楽ちゃんはドヤ顔をキープし続ける。
銀時「え、何何、もっかい言って。聞こえなかった」
神楽「幸せって美味しいアルな!」
『幸せ…?』
神楽「うん!」
聞き間違いではなかったらしい。
『なんでそう思うの?』
神楽「わかんないアル。でも、さくらのご飯食べるようになってからずっと思ってたアル」
『…』
きっと、神楽ちゃんは純粋に思ったままの言葉を言っただけなんだろう。
でも…
『…そっか』
それはあまりに真っ直ぐで、どうしてか、私の心に深く突き刺さった。